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たえず1歩前に

小林 陽子

今日の心の糧イメージ

 この夏の、あくまでも私個人の出来事です。とるに足らないといえばそれまでのこと。とにかくまともに歩けなくなったのです。

 3年前の右の足首の骨折が、今ごろ悪化して夜も眠れないほどの激痛に見舞われました。

 足首の関節の変形が原因らしい。それでも普通に歩けないだけで、杖をつき、そろりそろりとお能の摺り足状態なら、移動可能です。ゆっくり。ゆっくり。しずかに、しずかに。

 世の中の人々はなんて忙しそうに、早足で動いているのでしょう。バスや電車の中でも。手と指は忙しくスマホの画面をすべっています。

 すべてが素早く私を追い越して通り過ぎていきます。私は水底でひとり静かにしているようなのですが、ひとりぼっちではありません。いつも一緒にいてくださるあの方がいらっしゃるから。

 時間には「神さまの時間」と「人の時間」とがあるそうです。ふだん、私たちの生活は「人の時間」で成り立っていますね。24時間、時計はきっちり時間を分配してくれますから。

 でも、ほんとうは私たち、気づかなくとも「神さまの時間」を生きているのです。そのことに、足が痛くていたくて歩けなくなって、どこに居てもどこに行ってもゆっくり、しずかにしているほかなくなって気づいたのです。

 風景が変わりました。いいえ、風景を見る目が変わったのです。日頃見慣れている木立も、道ばたの雑草も、お隣の庭や植木鉢まで、ひとつひとつがくっきりと色鮮やかにキラキラといのちが輝いています。つまり、ちょっと大げさに言えば世界が変わりました。

 見るもの聴くものすべてが新鮮! 「はじめまして」なのです。

 世の風潮に逆らって、ゆるゆる、そろりそろりと、「神さまの時間」を生きるって最高のゼイタクかもしれません。