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たえず1歩前に

新井 紀子

今日の心の糧イメージ

 私たち夫婦は70歳を過ぎました。我が家には愛着のあるものであふれています。そこで旅立つ前に身辺整理を始めました。「天国に持っていけるものは、善行によって与えられる霊的な財産だけである」ということばもあります。

 一番気にかかったのは絵画作品の数々でした。中でも十数点所有していた画家Kさんの作品をどうするか考えました。私たち夫婦が北海道函館郊外の大沼に移住することになったのはKさんとの出会いがあったからです。彼の作品は北海道の大自然を題材としながらも光や雲、空が美しく描かれています。私の大好きな作品ばかりです。

 Kさんの絵画作品を1か所に集め、どんな絵か調べました。

 題名、油彩なのか水彩なのか、額と絵の大きさなどなど。1つの表にしました。表ができると、私たち夫婦は所有しておくことができないけれど、どこかご縁のある所に寄贈し飾っていただきたいと思いました。いろいろ考えましたが、寄贈先を2つに絞りました。

 1つはKさんのアトリエのすぐ目の前にある大沼中学校です。校長先生に中学校の目の前にKさんのアトリエがあり、素晴らしい絵画作品を残した人であることを話しました。

 「そんな方が中学校の目の前に住んでいらっしゃったなんて、少しも知りませんでした。ぜひ飾らせてください」

 もう1か所は、大沼セミナーハウスです。名誉館長は数学者で、フィールズ賞を受賞した広中平祐氏です。事務局長に話すとこちらも快諾していただけました。

 歌は歌われることによっていきいきと輝きます。同じように絵画は見られることによって生き生きと輝き始めます。

 絵画のコレクションを寄贈することによって身軽になった私は、天国へ向かって、1歩前に進めそうです。