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『今日の』祈り

堀 妙子

今日の心の糧イメージ

 祖父は橋を架ける仕事をしていた。大雨の日でも現場に行き、雨ガッパに長靴を履いて、工事の様子と作業員1人ひとりを見守っていた。私は子ども心に祖父の佇まいが心に焼きついた。

 祖父は自分のふる里で飼っていた馬の親子の話を、幼い私に何度もしてくれた。祖父の実家は山あいの村にあり、農業をなりわいとしていた。田畑の周りには、林もあり谷川もあり沼もあった。家の近くには馬小屋やニワトリ小屋もあった。日中は、馬もニワトリも放し飼いをしていた。

 ある時、仔馬が産まれた。仔馬は起きている時にも、眠る時にも母馬にぴったりとついて、片時も離れることがなかった。少しずつ歩く練習をするが、その時でさえ、母馬に仔馬は体の1部をつけていた。走る時にも母馬のそばに寄りそっていた。次第に母馬と仔馬は少し遠くまで出かけるようになった。

 ある朝、祖父の一家は、馬の親子が仲良く走っていく後ろすがたを見送ったという。しばらくして、仔馬が1頭で走ってきて、庭先で急を告げるいななきをした。母馬のそばを離れたことのない仔馬なので、何かあったのだと、家中の者が仔馬の後を追いかけた。するとそこは水草が絨毯のように浮いている沼だった。母馬は沼でもがいていた。沼はもがけばもがくほど泥がまとわりつき沈んでいく。皆で母馬を助けようと様々なことをしたが、ついに沈んでしまった。

 私にとって祖父の話は、仔馬が母馬の急を告げにきたところで止まっていた。今、自分自身の祈りをふり返って見ると、馬の親子の話がよみがえってきた。

 朝起きたら、主イエスのもとに仔馬のように駆けていき、「今日、主イエスが私に望まれることは何ですか?」と自分の思いを超えて聴こうと思った。