▲をクリックすると音声で聞こえます。

分岐点

片柳 弘史 神父

今日の心の糧イメージ

大きな失敗や挫折を経て、これまでとはまったく違った人生の1歩を踏み出す。新しい人間に生まれ変わってゆく。刑務所の教誨師として働く中で、そんな場面を目撃することがある。

刑務所に入って来る人たちの中には、あまり恵まれない家庭環境で育ち、愛に飢えた子ども時代を過ごした人も多い。愛の飢えを満たそうとして、何かに強く依存したり、異性に騙されたりするうちに、道を踏み外してしまったという人が多いのだ。そのような人たちの中に、大きな変化を遂げる人がいる。それは、刑務所での生活の中で、自分が親や子どもから愛されていることに気づけた人たちだ。

実際、刑務所に入れられるほどのことをしでかし、独りぼっちになって反省する中で、あるいは、家族から送られて来た手紙を読む中で、自分がこれまでどれだけ家族を悲しませてきたかに気づく人は多い。

ある人は、「自分のことを構ってくれない」と思いこんでいた親が、どれだけ自分を愛してくれていたか。またある人は、身勝手な理由で犠牲にしてきた我が子が、自分をどれだけ愛してくれているか。と、そのことに気づくとき、その人たちの中で何かが大きく変わる。「これほど自分のことを思ってくれる人たちを、もう2度と悲しませてはならない。これからは、この人たちを幸せにしてあげたい」という決意が、その人たちの心の奥底に生まれるのだ。

愛に飢え、自分が愛されることしか考えていなかった人は、自分がどれだけ周りの人たちを悲しませてきたか、自分がどれだけ愛されているかに気づくときに生まれ変わる。愛を求める人から、愛を与える人に生まれ変わるのだ。愛の中から生まれてきた人間は、愛の中でこそ生まれ変わる。それが、1つの真理であるように思う。