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わたしの故郷

黒岩 英臣

今日の心の糧イメージ

兎追いしかの山、小鮒釣りしかの川・・・。

恐らく、この歌の風景が、私達世代の高齢者の心に宿る故郷という存在の原風景だと思います。それでも、おのおのの故郷はやはりそれぞれ違っていることでしょうが。

私も自分の故郷は何処か、という自問にはっきりした答えが出せない気がしているのです。というのも、「故郷」とは「兎追いしかの山」でなければ故郷とは言えないような気がするのに、自分にはそこまで言い切れる場所が無いような気がしているからなのです。

その理由の1つに、私がこの前の戦争中に生まれたということがあります。目黒区碑文谷・・・この、母の実家で私は生まれ、幼児期を過ごしたようです。この年令ではまだ当然、兎は追えません。それに、目黒には、兎はいなかったでしょう。

そうこうするうちに、東京の空襲も激しくなり、私達親子も郊外の武蔵境という、当時はまだまだ田舎だったところへ疎開しました。3才になるかどうか位で、ここにも兎はいなかったようですが、欅の巨木が林立していたのを覚えています。

さて、この武蔵境の隣が今、私達が30年来住んでいる三鷹で、そこから2つ新宿よりが妻の実家のあった荻窪、そしてそのもう1つ新宿よりの阿佐ヶ谷に私達一家は武蔵境の後に引っ越したのでした。

こうしてみると、どうも我々夫婦は、中央線という東京の大動脈の一角から離れられないようです。

しかし、私達夫婦も、主の御許に行ける日もそうそう遠くはないだろうと実感する最近です。詩編に歌われているように、「主よ、あなたの住まいは何と美しい、それを想って私の魂は絶え入るばかり・・。」(参:84・1~2)これこそ私の故郷です。