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わたしの故郷

崔 友本枝

今日の心の糧イメージ

私は北海道で生まれ育った。田舎の大きな特徴は「静けさ」にあると思う。春ならば、そよ風が木々を揺らす音、鳥の声、冬ならば、きゅっきゅっと雪を踏みしめる靴の音がするくらいで、あたり一面は静寂に包まれている。外に出ると花の香りがした。そういう優しい雰囲気の中にいたのでゆっくり考えごとをしたり、1日中本を読んだりした。

関東で北海道のニュースを聞くと、雪や嵐などを非常に悲観的に伝えているが、そこに住む人々にとって雪は半年間つきあう友達だし、吹雪や大雨はいつでもやってくる当たり前のことだから身を守る準備はするが「自然」の変化に誰も文句を言わない。寒ければストーブの火を強め、温かいものを食べたらよい。時はゆったりと過ぎ、「しばれるね(凍えそうね)」と言って笑っている。

私はいま北海道とはほど遠い環境にいる。都会は面白いし便利だが、バスに乗っても、店に入っても騒音が多いことに悩まされる。なぜこんなに騒がしくしていなくてはならないのかと思う。「静けさ」は心を休ませ落ち着かせる。それだけでなく、神の声を聞くために必要なものだ。

聖書には、聖母マリアが絶えず内省していたとわかる記述がある。家族でエルサレムに旅をした帰り、12歳のイエスを見失い、3日後に神殿で見つけた。イエスは「どうしてわたしを探したのですか。わたしが自分の父の家にいるのは当たり前だということを、ご存知なかったのですか」と言った。聖母は意味が分からず、「思い巡らした」とある。(ルカ2・49~50)人の理解を超えた神に聞いていたのだろう。思い巡らすには物理的に音がないことと内面の静けさがいる。静けさは神の声を聞くための条件だと思う。