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愛でる

越前 喜六 神父

今日の心の糧イメージ

わたしは子どものときから、理屈っぽく、感情が乏しい子だったので、人でも物でも事柄でも好きだと思ったことは、あまりなかったような気がします。それだけ、生きていることにあまり興味がありませんでした。

今は少し感情が豊かになり、人生の種々の出来事に対し、喜怒哀楽の情を感じるようになりました。それは年輪を重ねたせいでもありますが、考え方が変わったからだと思います。

それまでは、知性が尊く、感情は低いものだと思い込んでいました。周りの教育や文化の影響もあったでしょうが、正直いって、兄弟10人のうち、女が2人で、男は8人。その末っ子のうえ、母はわたしが2、3歳の時、他界したことも関係していたのかもしれません。しかし、今ははっきり申し上げて、知・情・意のうち、1番上位に来るのは感情だということが、人間学の研究や、日常の体験から、確信をもって言えると思います。

ある人が書いていました。「女性は金で、男性は鉄だ」と。結婚講座でこの言葉をよく引用していますが、感情には直観力や先祖伝来の智恵も潜んでいるのです。ですから、女性は男性以上に人々や物事に対する愛でる感情が深いのではないでしょうか。

さて、話は変わりますが、わたしは花の中では、梅や椿が一番好きです。ですから、菅原道真が九州の大宰府に流される時、京の住まいの庭園に咲いている梅に向かって、別れの歌として、「東風吹かば、匂いおこせよ梅の花、主なしとて、春を忘るな」と詠った心情に想いを馳せます。「梅よ、主がいなくても、春にはちゃんと花を咲かせてくれよ、」という感慨でしょう。

私はこの歌を愛でています。