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時を待つ

湯川 千恵子

今日の心の糧イメージ

夏、近くの里山の緩い坂道を散歩すると、小さな穴が所々に開いているのを見かけます。蝉の幼虫が地上に這い出た穴です。

昔、虫好きの次男が庭の木の上から「今夜、ここから蝉の幼虫がでてくるよ」と地面を指差すので、半信半疑で待っていると、本当に幼虫が出てきて木に這い上がり、羽化して飛び立つのを一家で息を潜めて観察しました。割れた背中から反り返ってお尻を抜き出し丸まった羽をゆっくり伸ばし、青く透き通った柔らかい羽が徐々に茶色く硬くなり、一人前の蝉となって夏の夜空に飛び立ちました。

蝉の地上のいのちはわずか一週間。懸命に鳴いてパートナーを見つけ、子孫を残して死んでゆきます。地上での「晴れの時」は7年もの暗い地下での「忍耐の時」があればこそです。

硬い木の実が土の中で芽吹くのにも、「時」が必要です。胚芽が木の実の硬い殻を自然に開かせて芽吹き、そして、若木から大木へと育つにも、やはり「時間」が必要です。

人も同じではないでしょうか?

しかし人は無心に待つことをしないで、自分の力で何とかしようと焦り、あれこれ余計なことをして反って自然に育ついのちの力を損なうことが多いように思われます。

私も子育て中、「早く!早く!」と子ども達を急かし、4人4様の個性を伸ばすより、ないものねだりをしていたような気がします。

7人の孫を持つ身となった今、私は一人ひとりが、内に秘め持つ個性・人格が形成されていくことを信じてその時を待つことの大切さを知りました。

「いのちの与え主である神様は、一人ひとりのために一番いいように導いて下さいます。だから全てを委ねます。あなたの愛を信じて感謝します」と祈ります。

信じればこそ、希望を持って待つことができるのです。