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子育ての実り

今井 美沙子

今日の心の糧イメージ

最近、子どもの貧困をテーマにした本を読んでいたら、小学5年生にして、初めて、靴下を履いた少女の記録が載っていた。

実母はいたが、いわゆるネグレクトで、可愛がられた思い出は全くないという。

みかねた周囲の人が福祉施設に入れるようにしてくれ、そこで、初めて寮母さんに靴下を履かせてもらったという。が、足の裏はかさかさなので、寮母さんがやさしくクリームを塗ってくれた。

そのやさしい手の感触こそがその少女にとって、母親の愛情とはこんなものかと感じたらしかった。実母ではなく、他人の寮母さんに母を感じたのであった。

私は何も血のつながりがあるから親子だとは思わない。血はつながらなくても、愛があれば、乾いた心、固い心や冷たい心にも愛が浸透し、やがてはうるおわせると思う。

養護施設で働くシスターに聞いた話も忘れられない。

小学生の男の子は施設に入ってしばらくは靴を脱いで寝ることができなかった。

親の借金のため、いつも追われる身で、いつすぐに逃げなければならないかわからないので、夜も靴を履いたまま眠るのが習慣だった。しかし、シスターのあたたかく深い愛情が男の子を包み、安心が心身に広がり、靴を脱いで眠れるようになった。

砂漠の中にみつけたオアシスのような場所であり、人との触れ合いであっただろう。

些細な出来事かもしれないが、子育ての大きな実りだと私は思うのである。

一生涯、人を信じたり、愛したりを出来ない将来だったかもしれない少年少女に人間らしい喜びが芽ばえたのだから。

血はつながらなくても立派な子育ての実りなのだ。