母は亡くなるまで 、一枚ずつ増える感謝状の束を、枕許に飾っていた。賞状の文章を、毎年新しく考えるのは大変だったが、このおかげで、感謝力とでもいう力が鍛えられたかもしれない。
感謝力とは、人間を幸福にする力である。
賞状を贈られた母も幸福だったと思うが、贈った子どもも、また幸福だったのである。感謝の言葉を考えることで、日々の中に、嬉しかったこと、誇りに思っていること、大切だとわかったことを見つけていたのだ。
幸福に恵まれたから、感謝するのでは、感謝力は働かなかっただろう。人は、感謝をすると幸福になるのである。幸せの種子は、探すほど見つかり、数えるほど増えていくような気がする。母の中に、いろいろな美点や長所を見つけてあげることで、母はより素晴らしい人になっていただろうか。私の感謝力は小さかったので、その辺りはよく分からない。ただ、年に一度の母の日に、子どもから贈られる感謝のおかげで、幸福な人であったとは思っている。