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始め善ければ ・・・

小林 陽子

今日の心の糧イメージ

ものごとをスタートするときというのは、いつも夢いっぱいの希望と自負、それに少なからず不安もあってエキサイティングですね。

私はそんなときや、モヤモヤした気持ちをふっきる為に「山に入る」クセがあります。

2年前の梅雨のまっただ中、この辺りの外輪山でいちばん高い、「神山」という名の山の頂をめざして、ひとり、山に登ったのです。

新緑の木立は露にぬれてきらめき、誰ひとり出会うことのない静寂のなかで、ロザリオの祈りを唱えながら・・・。

ところが急な登りにさしかかる頃から、大きな石がごろごろして歩きにくいことこの上なし。これは下りを気を付けないと危ない!と自分に言い聞かせていたにもかかわらず、やってしまいました。下り始めてものの10分、石と石の間に足を取られて捩るようにもんどり打って転倒したのです。

全身打撲に足首の破砕骨折、と診断されて、松葉杖生活です。

これでは「始め善ければ・・」にならないのではないかって?いいえ、この松葉杖のおかげで、またとない体験に恵まれたのです。

バスや電車の乗り降りに、スーパーマーケットの買い物にも、気がつくとすっと手が伸びて「なにかお手伝いできることありますか」と声をかけられて。涙ぐんでしまいました。

人並みにできていたことができなくなり、人の助け、支えなしには1日が終わらない日々。ささいな日常のすったもんだはどうでもよくなりました。苦痛は感謝に変わりました。

私の場合、時間と共に回復して歩けるようになるけれども、けがの程度では、生涯歩くことのできない方もおられます。

もし、この体験がなければ、共に痛み、苦しむことを知らなかったでしょう。たんに「可哀想に」と同情するだけで。