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自然に親しむ

シスター 渡辺 和子

今日の心の糧イメージ

ある講演会の後で、主催者側が私に、大きな花束をくださいました。修道院に持ち帰るには大きすぎるなと思いながら、シスターたちの喜ぶ顔を思い浮かべて、持ち帰り、修道院長に渡しました。喜んだ院長が言った言葉が忘れられません。「まあ、何ときれい。まるで造花みたい」

近頃、ホテルのロビーの中央に飾られている立派な花は、近寄ってさわってみない限り、自然のものか、人工的なものかがわからないほどに精巧にできています。

アートフラワー、プリザーブドフラワー等、カタカナで表現され、自然に模したものが増えつつあります。たしかに、水をやる必要もなく、萎れることもなく便利です。病気の方へのお見舞に、便利で良いかもしれません。

でも、私はやはり、自然の花、草木に心をひかれるのです。なぜと問われて、「生きているから」としか答えようがありません。

生きているものは、いつか枯れることがあり、死ぬ時が来るという、冷厳な事実を忘れたくないのです。

そこから生じる、生きていることのすばらしさと、はかなさを身近に感じることが、私たちに、自然から多くを学ばせるのではないでしょうか。

山が工事のために削り取られ、田畑がつぶされて、コンクリートの建物に変わる世の中、自然に親しむ機会は、どんどん私たちの周囲から失われてゆきます。

小学生の時代、武蔵野を駆けまわっていた私にとって、自然は共存するものでした。それが今や、お金をかけて"親しむ"時代になっています。一番大切なこと。それは私たち人間も、自然の一部であるという謙虚さを失わないことだと思います。