そんな女の子もやがて小学校に上がりますが、この自然児は団体生活などにはまったく不向きで、帰りたくなると家に帰り、宿題なぞどこ吹く風。叱られてもビックリしているだけ。
今でしたら、すわ、問題児と大騒ぎになるでしょうが、時ははるか昔の大正時代、ちょっと変わった子だけれど邪魔にはならないし、ま、いいか、と大目にみられていたのです。家族の誰も、彼女の成績や先生の評価を気にする人はおりませんでした。
ある日、この少女は親戚の叔母さんから少し時代がかった髪型の「稚児髷」を結ってもらったまま学校に行ったので、教室中のクラスメートからさんざんからかわれたのでした。
「アラ、何か変な物が頭についてるよ、ふふふ・・」などと。
とうとう担任の先生が見かねて彼女を教員室に呼びました。
「あなた、みんながあなたをバカにして笑っているのになんともないの?」と、この生徒の髷を解いてやりながら言いました。心優しい先生でした。するとこの少女は、まじまじと先生の眸をみつめてこう言ったというのです。
「だれもわたしを、馬鹿には出来ません!」
うーむ、達人の出現だ・・・と、教員室の先生方は唸ったそうです。