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おおらかに

新井 紀子

今日の心の糧イメージ

私たち夫婦が3人の子供を授かったのは、神戸の山の上にある「ひよどり台」という住宅地でした。そこは山を切り開いて作られた場所で、近くには小高い山や丘、池や林がたくさんありました。休日には、家族5人で丘に登り瀬戸内海や淡路島を眺めたものです。網をもって池に行き、ザリガニやカエルを捕まえたりしました。甲羅の大きさが10センチ以上もある石亀を見つけたときもありました。それらの戦利品は、庭の片隅に作った池で飼いました。子供たちは暗くなるまで夢中で遊びました。そのせいでしょうか、家の中にはいつもカマキリやコオロギがはねていました。我が家の子供たちは、まず豊かな自然環境の中でおおらかに育ったのです。

さて、長男が小学3年生の夏、転勤で東京のど真ん中へ引っ越しました。転校した小学校へ登校するには、交通量の多い国道を渡らなければなりません。国道を覆うようにして高速道路が走っており、排気ガスが常に充満していました。急激な環境の変化に、私も子供たちも風邪ばかりひいていました。子供たちの遊びにも変化がありました。通学路に大きなスーパーがあり、おもちゃがすぐに買えるのです。小さなおもちゃを集めては、自慢しあいます。せかせかと流れる時間の中で、私はこのままではいけないと思いました。

6年前、私たち夫婦は大都会の横浜から、おおらかな生活を求めて、大自然の北海道大沼へ移住しました。現在は、湖畔の森の中で羊を飼って暮らしています。時間はゆったりと流れていきます。

時々子供たちは、孫たちを連れて遊びに来ます。

「ここはのんびりするなあ」

孫たちは仔羊たちとたわむれながら、いかにも楽しそうです。

子供たちは呟きます。

「ここは、第2のふるさとだよ」