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心を開く

服部 剛

今日の心の糧イメージ

私達は日々出逢う人々と、無数の言葉を交わしています。犬や猫にも感情はありますが、言葉で会話をするのは人間のみです。この〈言葉を交わす〉という能力は、古来より人間に託されている豊かな宝だと思います。

太陽が東から昇り西に沈んで1日は過ぎてゆくように、日常の営みは一見、単調な繰り返しのようです。おはようございます・ありがとう・おやすみなさい等の〈あたりまえの言葉〉でも、語る人の心によって全く違う波動で相手の心に届きます。そう思う時、改めて自分の言葉遣いを点検する必要があると感じます。「一日一善」と言いますが、もし1日に1回でも出逢う誰かに想いを込めた一言が伝わるならば、そこから本来言葉が持つ不思議な働きは、人と人との間に現われてゆくでしょう。

実は、私が思春期の時期、友達との会話に深く悩んだことがありました。仲間の集まりに出かけても、何を話せばよいのか分からず〈早く家に帰りたい〉とその場を離れては自室の布団に潜り込み、人並にコミュニケーションがとれない自分への嫌悪感に苛まれていました。その頃、ある先生から「話すことが苦手ならば、まずは聞き上手になることから始めたらいい」という助言をいただき、少し気が楽になった私は、徐々に閉ざしていた心の扉を開き始めたのでした。やがて、自分なりに会話の研究をしてみると、心の中に「会話スイッチ」があることに気づきました。人と会い、そのスイッチを押すと、私は人の話にそっと頷き、時折、質問をしながら〈会話とはAと言えばBという連想ゲーム〉という感覚が養われていきました。

このような思春期を過ごした私が大人になり、講演や司会に目覚めてゆく道をふり返ると、〈人生は面白い〉と思わずにはいられません。