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新しいいのち

堀 妙子

今日の心の糧イメージ

私は30歳の時に仕事に挫折し、実家に戻るなり入院をした。そのころは歩くことも困難で、「ゼンソクと同時に1万人に1人という難病です」と言われた。

入院した次の日に、青い目の司祭がキリストのおん体である丸いパンの形をしたホスチアをもってお見舞いに来てくださり、超特急でミサをささげてくださった。私はホスチアをいただき、さらに司祭は祝福をして帰っていった。

次の日から検査が始まった。肺にある難病と言われた影は跡形もなく消えていた。

私の病気はゼンソクだけになり、一般病棟に移された。ゼンソクの女性たちの病棟だったが、私が咳を四六時中して、他の人たちの迷惑になるので、看護師さんから別の部屋に移るように言われた。私はアルツハイマーの老人たちの部屋に入った。老人たちは心優しく、咳など気にもとめなかった。

老人同士は夜明け前に、ひそひそと話し始める。話の内容は決まってお産をした時の話だ。ある老人はこんな話をした。「元旦にお産をして周りの人たちに迷惑をかけたけど、日の出と共に産声を聴いた時には嬉しかった」と言った。また、「臨月になるまで畑で働いていて、急に産気づいてお産婆さんを呼んでもらって自宅で出産した」と言う老人もいた。

アルツハイマーの他に病気をもって入院中の老人たちにとって、いのちをこの世に生み出すということは、汲めども尽きない喜びのようだった。老人たちが夜明け前に話しはじめ、話し終わるのは日の出ごろなので、日々、復活前夜のような神秘的な雰囲気を味わった。

私には、老人たちがあれほど出産の話をするのは、そう遠くない日に天のふるさとに誕生する自分たちの新しいいのちを想像してのことかも知れないと思った。