弟一家は、良寛さんを暖かく迎えました。御馳走を並べ、良寛さんが大好きなお酒もつけました。しかし、良寛さんはお酒には手を付けず、甥の馬之助と楽しそうに話します。夜になっても、良寛さんは帰らずに泊まりました。翌日も良寛さんは楽しそうに馬之助と話し込むのでした。弟の家で良寛さんは2泊しましたが、馬之助に説教めいた話は一言も発しませんでした。
五合庵へ帰る朝、良寛さんは玄関に座り草鞋の紐を締め始めました。その時、馬之助に声を掛けました。
「草鞋の紐を締めておくれ」
馬之助は良寛さんの足元に近寄り、紐を締めようと屈みました。一生懸命、紐を締めている馬之助の項にポタリと熱いものが落ちてきました。驚いて顔をあげました。すると、その熱いものは良寛さんの眼からあふれ出た涙だったのです。
馬之助は良寛さんが自分のために泣いてくれていることに気が付きました。2日間、かけ続けてくれた慈しみのある言葉、楽しく過ごしたおじさんとの時間。これまで自分はお酒におぼれ快楽だけを求めて、なんと乱れた時間を過ごしていたのだろう。馬之助は改心し家業に精を出すようになった。
そういうエピソードです。
また、1枚はらはらと紅葉が落ちてきました。まるで良寛さんの熱い涙のように・・・。