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なつかしい

村田 佳代子

今日の心の糧イメージ

11月は教会では死者の月なので追悼ミサが捧げられたり、合同でカトリック墓地に行ったりします。それと共に1年が終わりに近づいた事で、この1年を振り返るなど、過去の出来事に心ひかれる月でもあります。この過去の事に心ひかれ、慕しく思う感情こそが「なつかしい」です。

学生時代を懐かしむとか、若い頃生活し今は遠く離れた土地を懐かしむとか、旅の思い出を懐かしむなど、人それぞれなつかしいと感じる心の宝物を持っているものです。その当時つらく悲しい出来事であっても、なつかしいと思える程、時が経つと、皆大切な経験という、人生を支える宝物に変化します。

戦後70年の今年、80代90代の人生の先輩から、そんな懐かしい大切な話を沢山伺うことが出来ました。学童疎開での苦労話の中にクスッと笑えるような、子供達ならではのエピソードがひそんでいたり、バケツリレーや灯火管制、空襲警報など、御近所同士が助け合い、互いの年齢や健康を気遣っていたわる姿は、まさに懐かしい昭和の日本人の気質がよく現われていて、思わず身を乗り出して聞き入りました。人間は共通の困難をかかえている時の方が、優しくなれるのでしょうか。

戦後、経済大国への道を一途に進んできた50年あまりには、東京五輪や大阪万博など輝かしい歴史的な出来事や、60年安保闘争と続く大学紛争などの事件もありましたが、思い出ではあっても懐かしむという内容ではありません。

かえって阪神淡路大震災前の関西の風景が、家族にとって思い出の地であるため懐かしく、20年後に再訪して復興の姿を目の当たりにすると、しみじみ感謝の気持ちがわいてきます。なつかしいとは心を込めて体験した事に対して、持てる感情のようです。