それは今から200年ほど前のクリスマスの夜のことでした。オーストリアのある小さい町の主任司祭ヨゼフ・モールは途方にくれていました。教会の古びたオルガンは、もはや音を出さないほど壊れてしまっていたのです。
深夜ミサに信徒たちが集まってくる時間は近づいていました。オルガン無しで歌える歌を新しく作ろうと考えた司祭は、数日前に生まれたばかりの幼な子を祝福するため訪問した家族を思い出したのです。寒さから守るために、産着にくるまれた幼な子と母親の姿。
すると、どうでしょう。歌の言葉が天から降ってきたかのようにモールに与えられたではありませんか。出来上がった歌詞を持ってモールは近所の音楽教師である友人、フランツ・グルーバーの家に駆け込み、ミサの直前に、ギターでも歌える「静けき真夜中」が完成したのでした。
苦しみの中、友情に助けられて生まれた聖歌は、またたく間に世界中に広まりました。一方、その作詞作曲のエピソードは、160年もの間、知られていませんでした。
それはちょうど、貧しさの中で、人々に知られることなく生まれ育ったキリストの誕生を祝う歌としては、まことにふさわしいものだったと言えるのではないでしょうか。