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岐路に立つ時

今井 美沙子

今日の心の糧イメージ

私は昨年の夏頃まで比較的平らな人生を歩んで来られたと感謝をこめて思う。

健康にも恵まれ、家族にも恵まれ、仕事にも恵まれ、友人にも恵まれて来た。

よく母が「よそであることは自分でもあると思わんばよ」といっていた。

母は他人が病気になったり、あるいは不慮の事故で亡くなったりすると、「自分にもあると思わんばよ」と不幸に対する心がまえをしておくようにというのだった。

昨年の夏、大腸ガンの宣告を受けた時、母の言葉がよみがえってきた。

「ああ、自分にもついにやってきた。神さまに祈りつつ乗り越えなければ」と思った。

しかし、身体にメスが入ることは絶対イヤで、樹状細胞療法と、イメージ療法で治そうと考え、主治医にその旨伝えたところ、「このまま手術しなかったら余命1年!」とはっきりといわれた。

運命の岐路、生死の岐路に立たされて、私は考えた。1年。あと1年で一体何が出来るであろうか。何かに取り組んだとしてもすべて中途半端に終わるだろう。

と思うと、あれほど手術はイヤであったのに、手術の決心をしたのである。

やはり、死より生を選んだのである。

手術は無事終了し、私は元の生活に戻りつつある。手術半年後の経過観察は良好であった。あと4年半の経過観察が必要であるが、余命一年からはまぬがれた。

人間に生まれた限り、どの人間も死からのがれることはできない。いつ召されるか、それは神さましか知らない。

これからも再び、生死の岐路に立たされるかもしれないが、私は神さまが許してくださるのなら生を選びたい。あとの人生、後悔のないように毎日毎日を精一杯生きたい。