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天の国の鑑

三宮 麻由子

今日の心の糧イメージ

私はエッセイを書いていますが、普段は外国の通信社に勤務し、ニュースの原稿を英語から日本語に翻訳しています。エッセイの仕事でさまざまな分野の方とかかわり、あらためて私が勤める会社に、天の国のロールモデルを見ているように思うことが多くなりました。

私は視力がないので、たとえば机の位置が10センチずれていただけで、複雑な曲線でできたオフィスのなかで方向感覚がなくなり、あらぬ席に迷い込んだりします。そんなとき、誰からともなく助けの手が差し伸べられます。

「どこにいこうとしてる?」

「"You need some help?"」

いろんな声がかかり、無事正しい方向へと導かれます。

 

翻訳の仕事でも、音声と点字で漢字かな混じり文を書く苦労を、みなさん良く理解し、細やかにフォローしてくださいます。一方、フランス語や音楽など、私の知識が生かせることについては助言を求められます。こうして、私は肩に力を入れず、自然に振る舞うことができています。

もちろん、会社は完璧な理想郷ではないでしょう。でも私は、エッセイの仕事で多くの分野の人とかかわっているだけに、ハンディキャップのある私に会社の人たちが示してくれる理解と自然なかかわりは、模範的なレベルと感じています。

一番素晴らしいのは、私を隣人と感じ、私とかかわることを普通の行動と誰もが考えている点です。聖書に出てくる一人の「善きサマリア人」はたしかに偉い。けれど、天の国の実践は一握りの善人では不可能です。良い行いを特別な「勇気ある行動」として美化するのではなく「普通のこと」としてささっと実行できる人が増えること、それが天の国の始まりではないでしょうか。

職場自慢で恐縮ですが、私はこのモデルをこれからも見つめ、進化させていきたいと思っています。