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マリア様の役割

小林 陽子

今日の心の糧イメージ

小学校5年生のときでしたか。

日曜学校でのはじめてのクリスマス会。まだ通いはじめてまもないわたしの役は、羊飼いでした。

「あたまに被るフロシキと、それをくくりつけるヒモを持ってきてね」とシスターに言われ、母に頼んで大ぶりのフロシキときものを着る時に使う腰ヒモを用意してもらいました。羊飼いの出来あがりです。

その時のマリア様役は近所に住んでいた同い年の女の子で、色白のきれいな少女は青いヴェールと足首までのマリア様の長い衣がよく似合い、わたしはうっとり眺めていましたっけ。

そして、はじめてのイエス様ご誕生の聖劇にすっかり感動してしまいました。

最初の「天使のお告げ」のシーンです。

まっ白な衣に羽をつけた天使の、「めでたし聖寵みちみてるマリア」で始まる挨拶。そして、「なんじみごもりて男子を産まん」と続きます。昭和26年頃のお話ですから、聖書は全部文語体だったのです。でも、その天使のお告げに答えるマリアさまの、「われは主のはしため、仰せのごとくわれになれかし」。

小学生ではまだ古文は習いませんから、正確な意味はわかりません。でも、天使の前にぬかづいて、「おおせのごとくわれになれかし」と答えたマリア様のすなおさ、きよらかさは、10才のわたしを完全に魅了してしまいました。

「おおせのごとくわれになれかし」

なんと美しい言葉でしょう。音楽です。

次の年のクリスマスには洗礼のお恵みを頂いたのですから、マリア様のこの、「おおせのごとくわれになれかし」が、わたしの人生を変えてしまった、というのは大げさでしょうか。

それからまた、文語の聖書の文体くらい、美しい日本語はない、と思えるのも、マリア様のこのひとことが始まりです。