ミッションスクールに通っていた中学生の頃、1人のシスターから聖母子像の絵画のお話を伺ったことがあった。いつか見たいと願っていた名画にやっと巡り会えた時、シスターは驚かれた。聖母の御顔は美しかったが、腕は太く逞しく描かれていたからである。赤ちゃんを抱き上げ、水や薪を運んだ腕。その時代に女性に課せられていた多くの労働をこなした腕。まさに生きた聖母に会ったのだと震えるように理解されたそうだ。その後は、聖母に一層の尊敬と親しみを持つようになったともお話し下さった。誰が描いた絵だったのか、どんな経緯で見ることが出来たのか詳しい点は覚えていないのに、シスターの嬉しそうな、何かに励まされたような明るい御顔だけは忘れられない。
私たちは時々、自分の小さな心だけしか頼るものがないのだと悲しく思うことがある。だが人々から離れ、静かに自分の義務を果たしている時、心は近づいて行く。神の御心のままに苦しみに耐えて生き、よく働いた腕を持った方の許へ。シスターの明るい御顔も、ご自身が苦労をなさる時には、聖母が共にいて下さることを知ったためだったのかもしれない。聖母月に甦る思い出の一つである。