これは今、流行りのアンチエイジングとはまったく違います。年令への強いこだわりがあるからこそ、若返りに励むのでしょうが、Mさんは若返りたいなんて思わない。
ただ、自分の年令も経歴もまっさらにしてすべてを新しい目で眺め、なにかを始めようという、なんともすがすがしい「人生の仕切り直し」です。
それで思い出したのが"時間"についてある神父様が話された、ギリシャ語の「クロノスとカイロス」です。
クロノスはいわゆる日常生活の時計の時間。問題はカイロスです。時間を超えた時間。
決定的な出会いの瞬間や、改心の一瞬。日本の茶道でいう「一期一会」でしょうか。
聖書的にいえば「神の時間」ですね。
普段、24時間というクロノスの時を呼吸しているわたし達はたえず時間に追われています。息がつまりそう!
でも、ふっと出会ったひとことに全身が震えるーその一瞬がカイロス。神の呼びかけに「はい」と答えるそのときがカイロス。
もしかしたら、Mさんがあのような宣言を口にした瞬間は、カイロスの訪れであったのかもしれません。
「始めることさえ忘れていなければ、いつまでも老いることはない」。と言ったのは宗教学者マルティン・ブーバー。
そう、なにが人を生き生きと輝かせるかといえば、死ぬその時まで自分の可能性をあきらめないこと、なにかを始めることができるってこと。ですよね、M子さん。