私たちは全て自分で判断し、行動しているようで、実は目に見えない子どもの声に従っていることがある。
或るお宅では、高価な棚におもちゃの乗り物が沢山並べられ、立派な本棚には、古い少年漫画雑誌がぎっしり並べられていたが、それはお父さんの部屋なのだった。こんなおもちゃが欲しかった、こんな漫画が読みたかった、と父親の中の少年が作らせた部屋のように思えた。大人が大人らしくない不思議な行動をする時は、心の中の古い時間とそこに住んでいる子どもがさせているのかもしれない。
自分の中に様々な時間が流れていることを知る時、誰も皆、小さな子どもを胸のなかでいたわりながら生きているのだと理解した時私たちは初めて、立場や年齢の違う人々に深い思いやりを持てるのではないだろうか。そうだとすると、「古い自分を捨てる」のは不可能に近いことに思える。捨てるとすれば、「古い習慣」や「古い考え方」くらいにしておいた方がよいような気がする。