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古い自分を捨てる

村田 佳代子

今日の心の糧イメージ

「なかなか良かったよ、君の演技は一皮むけたね。本番もその調子で頑張って」舞台げいこが終わると演出家が、若い俳優に声をかけました。その若者は役をもらって色々悩み工夫し、それ迄自分の持ち味だと思っていたものを一度捨て去って、その役と向きあい新しい自分の可能性に期待して、思い切った演技をしてみせたのでした。

テレビの世界ではお笑い芸人が巾をきかせていますが、彼等は自分自身が笑ってしまう事は許されません。馬鹿馬鹿しいことを大真面目に演じるので、視聴者は笑ってしまうのです。修行の時に自分を捨てることを、徹底的に鍛えられるのだそうです。

一方「自分を捨てる」という意味を持つ言葉として、まず思い出されるのは「献身」という単語でしょう。自分自身の利益は全て犠牲にして他者のためにつくすことで、反射的にコルベ神父様やマザーテレサの生涯を思いうかべます。

では「古い自分を捨てる」となると、どういうことなのでしょうか。動物には成長の段階で殻を破って大きくなっていく種類のものがあり、夏の朝、草木の葉裏でせみのぬけがらを発見したり、田舎の道でカラカラに日干しになった蛇のぬけがらを見てびっくりしたりという経験は、子供の頃の思い出でもあります。

それならば人間にとってのぬけがら、古い自分を捨ててこそ、人間も成長してゆけるのでしょう。そうすると古い自分の「古い」という言葉が重要です。古いとは時間をイメージさせ、昔とかずっと長い期間を指す言葉ですから、人間は絶えず自分自身を進化させて、若い俳優のように何処迄自分が変われるか、芸人が献身的に笑いに奉仕するように、古い自分にならない努力が大切という事になるでしょう。