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希望はここにある

越前 喜六 神父

今日の心の糧イメージ

私の青春時代は戦争中で、受洗するまでは、暗黒時代といっても差し支えないと思います。終戦のときは、山奥の銅山で、空腹の中重労働をさせられていました。終戦で家に帰ってきたが、すでに両親はなく、兄弟たちは皆実家を出て、ばらばらでした。取り残された末っ子の私には、絶望しかありませんでした。

その時読んだ本に、戦時中、ユダヤ人の精神科医、ヴィクトールE・フランクルが、ナチの強制収容所で体験した生き地獄の状況を描写した書物、『夜と霧』がありました。収容所のユダヤ人が強制労働をさせられた上、いつガス室に送られて殺されるか分からない絶望的な状況の中で、朝まだき厳寒の労働に連れてゆかれる最中、フランクルは会えない妻を思い出し、どんなに妻を愛したか、それなのにそれを十分に表すことができなかったことなどを想起していました。すると、前方に妻の姿がくっきり浮かぶのが見えました。その瞬間、彼は内心深い慰めと喜びと愛を経験するのでした。実はそのとき、彼の妻はガス室で殺されていたのですが、現実ではなくても、心と思いの中で、愛したという経験を思い出すだけでも、人は生きる充実感を覚えることができると、フランクルは自らの体験を基に書いています。

ところであの戦後のひどい状況の中で、私の心を支えたのは、神がいらして、無条件に私を受け入れ、愛していてくださるという、信者の姉が残してくれたキリスト教の信仰でした。それで毎日、独りでよく祈りました。

人は希望がある限り、生きていきます。誰にも何にも頼ることが出来ないと気づいたならば、あなたを愛し、あなたのために死んで復活された主キリストを思いましょう。きっとあなたの心に希望がわいてくることと思います。