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先輩に倣う

今井 美沙子

今日の心の糧イメージ

ふるさと五島列島を出る前に、父母から、「もう、父ちゃんと母ちゃんが教えらるっことはあらかた教えたけん、あとはさ、世間の人どんに育ててもらえよ。会社に入ったら、あがは一番の新米じゃけん、一年でも早く入って働いちょる先輩ば見倣うてぎばらんばよ」とはなむけの言葉をもらった。

父母は常々、「自分より一年でも早う生まれた人間はさ、自分よりも知恵者じゃと思うて見倣わんばよ」というのが口癖であった。

私は父母のいいつけをよく守り、六十七歳の今日まで生きてきた。確かに父母のいうことはその通りであった。その時々で先輩の声に耳を傾けると今一番必要なことを教えてくれた。

些細な例をあげると、スカートを収納する時には裏返しにして収納すると生地が痛まないし、色が変わることもないということである。タンスにしまうほどのことはなく、うっかり数日間窓辺の所にかけておいても大丈夫と教えていただいた。

何に対しても先輩に倣うという気持ちを持てば、日常生活、ひいては人生がスムーズに行くものだというのが私の実感である。

さて、先輩を見倣うことはしてきたが、その逆の場合、自分が後輩に見倣ってもらうことをして来ただろうかと思うと自信がない。

それでもこれまで七組ほどの結婚の仲人をした。

「今井先生、ご夫妻のような家庭を築きたい」というのが私たちに仲人を頼んだ理由であった。開かれた家庭でありたいというのであった。五島の父母ほどではないが、まあ、今日まで、及ばずながら人の相談にはよくのってあげたつもりである。

それが出来るのも、心身が健康であり、経済的にも恵まれているからだと、いつも、神さまに感謝して暮らしている。これからは、人生の先輩として倣ってもらえる日常を送りたい。