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先輩に倣う

三宮 麻由子

今日の心の糧イメージ

その先輩は、会社歴が私より5年ほど長い女性です。社員を訓練する部署にいて、よく通る曇りのない声の方です。

仕事での接点はありませんが、私の小鳥好きを知って、休憩室で私を見かけると、ご自宅の近くの川で育つカルガモの雛たちの様子を見事な描写で教えてくださるのでした。

やがて、私たちは毎日のように時間を合わせて昼食を共にするようになりました。大学で物理学専攻だった先輩は、文学部の私には思いもつかないような発想を次々と繰り出されます。その回転の速さと鮮やかな論理、透明な正義感、誠実で正直な生き方に感動し、私は先輩を人間としてのお手本と仰ぐようになりました。

この方に倣って私が実践し、大きく変わったことがいくつかあります。その一つに、永年の悩みが解決したテーマがありました。

それは、人様のうわさをしないこと。私は友達や先生のうわさや陰口が嫌いで、小さいころからそうした話に巻き込まれると困ったなあと思うほうでした。でも付き合いだから仕方ない、と諦めていました。友達の誘導尋問に相槌を打ったら「麻由子ちゃんがこんなこと言ってたよ」とこちらがうわさにされてしまったこともありました。

ところがその先輩は、人のうわさをしないという精神を徹頭徹尾貫いておられるのです。グループのなかでそんな流れになると、すぐに聞き手に回ったり話題を変えたりして、関知しない態度をはっきり示されます。

勇気ある行動だと感服しました。そして、このように自分の意思を明確にすれば陰口に巻き込まれないという会話術の勉強になりました。

自分の欠点を差し置いて人様の欠点を言い合うべからず。ノンクリスチャンである先輩を通して、イエスはこの教えの実践法を授けてくださったのかもしれません。