恋人たちはきっと、相手の全てを自分のものにして、一心同体でありたいと願うだろう。結婚した後は、更に二人が一致することを望むかもしれない。だが、指紋を同じにすることが出来ないように、二人の価値観は同じにはならないのだと、覚悟していた方が幸福になれるような気がする。
人は自分という城に一人で住む孤独な生きものに見える。孤独に苦しんでいる故に、いっそう強く誰かと、何かと一致したいと望む。人が一人で生きていくことが出来ないのは、人間がそれだけ不完全な存在であるからなのかもしれない。しかし、それはなんと魅力的な不完全さであるだろうか。
人にはそのデコボコした不完全さがあるから、何とか、他人の同じようなデコボコとつながることが出来るのである。足りないところを愛や友情で埋めることが出来るのである。埋めて、つなぎ合わせて作ったものが、人類という一枚の地図であればよいと思う。
フォールズ医師は、大森貝塚の発掘にも立ち会った。土器の一つに、古代人の指の痕がついていたのを見て、深い感銘を受けたそうである。人間の手を使った仕事には、痕跡が残る。一人一人の痕跡を大事に残した、美しい人類の地図が広がる日を私たちも願っている。