4月下旬のある日、私はタイヤ交換のため整備工場へ行きました。すると、いつにもまして訪れる人で込み合っていました。訪れた5、6人の人たちは、それぞれに心をはやらせていた、そんな時でした。生後2か月ぐらいでしょうか、女の赤ちゃんを連れた若い夫婦がやってきました。ピンクの毛布にくるまれています。どんな赤ちゃんなのだろう。みんなが一斉に覗き込みました。私もそっと覗きこみました。桃色のほっぺをした赤ちゃんです。
「かわいいねえ。どれどれ、ちょっと抱かしておくれ」山菜採りの女性が赤ちゃんを抱き上げました。
カーネーション農家のお母さんは、「いいねえ、赤ちゃんを抱くのは久しぶりだよ。」
牛飼いの男性も赤ちゃんを抱き上げると、言います。
「女の子か、元気に育てよ」
タイヤ整備の人たちも工場から出てくると、次々と抱き上げました。「どんな大人になるのだろう。早く大きくなれよ」
赤ちゃんは、みんなに笑いかけてくれます。
タイヤ交換が終り、赤ちゃんと若い夫婦は帰って行きました。その後ろ姿を見送りながら私たち全員は全く同じことを考えていたと思います。それは祈りのようなものでした。
あの赤ちゃん、どうか健やかに育ってほしい。戦争や災害のない平和な世の中でありますように。