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自然に親しむ

土屋 至

今日の心の糧イメージ

 昨年の9月下旬、雨上がりの風のない朝、桜並木の下を歩いていたら、どこからともなくいい匂いがしました。あの桜餅の香りです。そのいい匂いのもとは何か、犬のようにクンクンとかいで探すのですが、なかなかみつかりません。

 下の方から匂ってくることを見つけました。どうやら、地面が赤みを帯びた茶色にそまっているところから匂いが来ているようです。これは何だろうと上を見上げたら、そのサクラの木には葉っぱが虫に食われているところが多くあり、さらによく見るとケムシがたくさんいました。ということは、この赤茶色はケムシの糞なのです。なんとケムシの糞がいい匂いを発しているのです。

 さらによく観察してみると、その糞は適度の湿り気を持っていることに気づきます。雨上がりの風のない朝という条件が必要なようです。

 そして、そのケムシの糞はどのサクラの木の下にも見られるのではなく、木を選んでいるようなのです。春になって花をつけてはじめてそれがオオシマザクラの木であることが分かりました。

 そういえば、以前妻の実家からおかあさんが桜の葉の塩漬けを送って来たことがあったので、さっそくそのつくりかたを教えてもらおうと電話をしました。その話によると、6月頃オオシマザクラの若い葉をとってきて、3ヶ月くらい塩漬けし、それから梅酢に3ヶ月つけるとあの香りがうまれるのだそうです。

 ひとが半年かけて作る香りを、ケムシは自分のおなかのなかで一昼夜にして作り、糞として排出します、糞というとあまりいい匂いがするとは思えないだけに、それを発見したときは驚きと感動を覚えたものです。

 自然に親しむことには、こんな驚きと感動、つまり「センス・オブ・ワンダー」に満ちています。