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自然に親しむ

三宮 麻由子

今日の心の糧イメージ

 私は、東京の武蔵野の端っこで育ちました。郊外の自然を思わせる、比較的豊かな自然環境でした。

 春には近くの空き地にタンポポが咲き、近所には広大なキャベツ畑があって、虫や小鳥が暮らしていました。私たち悪がき連はよく、休耕中の畑の畝に自転車で乗り込んで大暴れしましたが、農家のおじさんにおこられることもなく、楽しく遊んだものでした。

 野鳥の声を聞き分けるようになると、私は山野に入り、レンジャーさんの案内で色々な鳥と会うようになりました。それ以来、都会にいるときでも常に自然を探すアンテナが働くようになりました。

 現在住んでいるのは親元と同じ地域ですが、駅からすぐ近くの高層マンションです。子どものころに経験したようなのどかな武蔵野の雰囲気は感じられません。引っ越す時点で寂しくなるなと覚悟していたものの、最初のころは想像以上に自然が恋しい日々でした。

 ところが日を追うにつれ、実は地上五十五メートルの我が家の高さにも、豊かな自然の営みがあることが分かりました。

 この高さは、地上と空の中間といえる不思議な気流の場所らしく、風の音が面白いのです。夏にはベランダに蝉がきて賑やかに鳴くこともあります。ハクセキレイが窓のすぐ外でチチッと鳴いて飛び去ることもあります。さらに上の階でも、夜に窓を開けているとカナブンや蝶が入ってくるとも聴きました。こんな高さなのに、注意していれば、自然の営みはすぐ傍で感じることができたのです。

 自然は、いつでも私たちの傍にあり、私たちを包んでくれているのだとつくづく思います。そう思うとすっかり安心でき、いまはもう寂しいとは思わなくなりました。

 自然とは、私たちにとって空気のような存在なのかもしれません。