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自然に親しむ

熊本 洋

今日の心の糧イメージ

 古来、日本人は、自然をこよなく愛し、稲作、鎮守の森などで自然に親しむ、あらゆる営みを続けてきました。その日本人が、突然、東日本大震災、福島原発事故で未曾有の大試練に立たされ、天災、人災の恐ろしさを、いやがうえにも認識、痛感させられています。

 いみじくも、物理学者で、文学にも長け俳句の名人でもあった故寺田寅彦博士が80年前に「深い慈愛をもってわれわれを保育する母なる大地には、刑罰の鞭をふるって、われわれの怠け心を引き締める厳しい父の役割を果たすこともある」と言った意味の言葉を残しておられます。まさに、東日本大震災と原発事故は人間の科学に対する過信、愚かさ、無知、傲慢に対する、父の役割を果たした母なる大地の戒めでしょうか。これを謙虚に受け止めるもよし、無視するのも全く自由、ともかく、罪科の無い幾万もの老若男女の生命、財産、あらゆるこの世のものが突如一挙に消え去った、あの奈落の苦しみを、断固、繰り返してはなりません。

 だれもが懸念している未解決の使用済み核燃料の処理問題、これを真摯に思う時、人類の安心と安全は、"なお、道、遠し"。結局、科学のより賢明な発展、人類が長らく培ってきた叡智、自然への感謝の念、それに人類一人ひとりの回心に待つほかないと思うに至ります。

 人々の平和を願う熱い祈りと平和実現のたゆまぬ努力によって、必ずや、その結実があることを願って止みません。

 「何事にも時があり、天の下の出来事にはすべて定められた時がある。(中略)破壊する時、建てる時。(中略)失う時、保つ時(中略)すべての行為には定められた時がある」(参:コヘレトの言葉3・1〜17)

 味わうべき旧約聖書の一節です。