そうなんだ、人はどんな所でも、たとえ一輪の花でも育てたいという気持ちがあるのだと嬉しくなったのである。
一体、どんな人が住んでいるのかと毎夕、見上げていたら、ある日、わかった。私より少し下くらいの中年の女性であった。
ワンルームなので、若い男性や若い女性の出入りは見かけたことがあるが、中年の女性は初めてであった。そこは単身者のみのマンションなので、私はその人の老後の幸を神様に祈らずにはいられなかった。
ずいぶん以前に五島列島の離れ小島でひとりで暮らしているおばあさんを取材したことがある。おばあさんは毎日、段々畑を耕し、野菜を植え、その手入れに余念がない働き者であった。おばあさんの暮らす家の横には菊の花を育てて祭壇やお墓に供えるのだった。
ある夕方、段々畑に誘われ、一番高い場所から地上を見下して、私はアッと声をあげた。
地上の菊の花は、高い所から見下ろすときれいな三重の菊の円になっていた。白、えんじ、黄色。「この島もだんだん人が少のうなってわたしん家の回りにゃ、人はおらん。じゃばってん、わたしがここで生きちょることば神さまに知らせて守ってもらいたかけんね」
自然に親しみ小さな宇宙を作っていたのだ。