だって「はい、そこはもっと歌って」といわれても、実際にピアノが口を開いて歌うわけではありませんからわかりませんよね、7つか8つの子供には。
そう、先生がピアノで歌って聴かせてくださったので、知らず知らずからだが覚えていったのでしょう。
レッスンに通ったのは、坂道の下の古い先生のお宅でした。くすんだ色あいの額縁の中の絵のように思い出されます。
少し薄暗い応接間に2台のピアノが並んでいて、堅型のピアノが私たち子供のレッスン用でした。放課後の午後の時間、静かな応接間でのひととき。そのころは特にピアノが好きでもなく、ただ母の言うことをきいて通っていただけでしたが・・・。
ずうっと後になって教会のミサのオルガン伴奏の奉仕が巡ってきました。
「はい、歌って」と先生の声が聞こえてきます。
はるか彼方から、でもはっきりと。