その母が、「あなたたちも努力しなさい」と言った時、自ら手本となっていた母の姿に、私たち子供も返す言葉がなく、ただ従っていたのでした。
母はよく諺を使って、物ごとの"あるべきよう"を教えてくれました。その一つに、「なる堪忍は誰もする。ならぬ堪忍、するが堪忍」というのがありました。
母は、本当に我慢強い人でした。私などにはわからない苦労を、黙って耐えていたのでしょう。誰にでもできる我慢は、我慢のうちに入らない。ふつうなら到底できない我慢、忍耐、許しができて、はじめて「堪忍」の名に値するのだという教えでした。
この教えは、私の80年の生涯を何度も支えてくれました。ある時、会議の席上で、きわめて不当な個人攻撃を受けたことがありました。会議終了後、何人かが「シスター、よく笑顔で我慢したね」と言ってくれたのですが、母のおかげです。私は亡き母に、「良いお手本をありがとうございました」と、心の中で呟いていました。