あどけない幼児の動作を感心して眺めながら、私はこの子の母親が高校生だった時のことを思い出していました。教師に対する礼儀をわきまえた敬いの態度、同級生への思いやり、表立たずに率先して奉仕に励む姿勢など、感心させられることの多い生徒でした。初めての保護者会で母親と面談したとき、この生徒が受けている家庭教育、とくに母親の生活態度や対人関係が大きな影響を及ぼしていることに気づいたのです。
結婚して自らが母親になった今、かつて家庭で親から学び、身についたゆかしい生き方をそのまま、おそらく自覚することなく継承しているのでした。
幼い子供は、母親の一挙手一投足をじっとみつめて、それに倣います。さらに、言葉や動作に自ずと表れる内心の動きを敏感にとらえて反応し、いつのまにか親の思いをそのまま自分のうちに取り入れてしまうのです。わが子の心に、他者の苦しみや悲しみに共感し喜ぶ人と共に喜び、助けを必要としている人にいち早く手をさし伸べる優しさを育むことのできる親は、人生の途上で、すでにその報いを楽しむことができるでしょう。