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愛の実践

土屋 至

今日の心の糧イメージ

 夫婦の出会いを体験するマリッジ・エンカウンターという運動がキリスト教にある。私たちはこの運動が日本で始められた40年前に参加した。ここで「愛とは決断である」というメッセージを学んだ。

 私の妻は結婚して10年後に統合失調症を発病し、それから10年近くの間に4回の入退院を繰り返した。この病気のおそろしいところは、妄想によって人を信じられなくなるというところにあると思う。「お金がなくなった、あなたが隠したんじゃないか」「まわりの人みんながわたしにいじわるをする」このような妄想が妻を支配するたびに激しい言い合いとなり、それによってますます病状が悪化するということをくりかえした。

 二度目の入院の前に、妻は「もうあなたが信じられなくなった」といって「離婚届」をおいて家を飛び出した。私は呆然として仕事も何も手が着かなくなってしまった。

 今ふりかえると、あのときに私たちを救ってくれたことがあった。

 そのひとつは結婚式の時に「順境の時も逆境の時も、病気の時も健康の時も生涯の忠誠を誓う」ととなえたあの宣言である。これは病気のひとつの症候であることに気づきだした私はここで別れることはこの誓いに反することであり、妻を見捨てることになる、それはできないと思った。

 そして「愛とは決断である」というあのメッセージである。愛は好き嫌いの感情をこえた自分の意志の問題であり、ここでもう一度その決断を再確認しなければならないときだと確信した。

 私は妻の弟の助けをえて、妻を連れ戻しにいった。妻はすぐに入院となった。

 しかし、あれから妻の病状の進行は止まった。妄想も徐々に少なくなり、今は入院することなく20年を経ている。あの『決断』が私たちを救ってくれたと信じている。

 (土屋至様の奥様は今年5月帰天されました。ご冥福をお祈りしております)