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豊かな心を養う

片柳 弘史 神父

今日の心の糧イメージ

 趣味で花の写真を撮るようになってから、一つひとつの花の名前を調べるようになった。人に見せるときに説明しやすいし、自分の記憶を整理するのにも役立つからだ。

 すると不思議なことが起こった。毎日の散歩が、前よりもずっと楽しくなったのだ。例えば、これまでは「ああ、何か白い花がたくさん咲いている」としか思わなかった景色を見て、「今年もまたタマスダレが元気に花を咲かせた。なんて愛らしいんだろう」などと思えるようになった。ときには立ち止まり、しゃがんでじっくり眺めることもある。最近は、樹木の名前も覚えるようになって、ますます散歩が楽しくなってきた。

 身近な植物の名前を覚えることは、私たちの生活を豊かにしてくれるように思う。名前を知らなければ、「いつもの花」、「ありふれた木」としか思わず、考え事をして通り過ぎてしまったかもしれない景色が、心を揺さぶる、意味のある風景に変わるからだ。花や木に関心を持ち、立ち止まって顔を近づけることで、美しさへの感動や、生命の力強さへの驚きなどが生まれてくる。それらの小さな気づきが、私たちの心を喜びや力で満たしていくのだ。注意してよく見れば、この世界は感動と驚きにあふれている。それに気づくことさえできれば、私たちはいつも満ち足りた気持ちで生きることができるだろう。

 心豊かに生きるために、高いお金を払って芝居やコンサートに出かけたり、遠くの名所旧跡を旅したりする必要はない。道端に咲く小さな花や公園の木々の名前を覚え、それらに関心を持つだけでも、私たちの心は感動と驚きに震え、喜びや力で満たされるのだ。

 心を豊かにしてくれるものは、いつでも私たちのすぐ近くにあって、私たちが気づくのを待っている。