そして、ひとりになると、聖書やトルストイの民話を暗記するほどまでによく読み、ひとつひとつ自分の心に刻みこむようにした。
トルストイの民話の中の『人は何で生きるか』、『愛のあるところに神はまします』、『二人の老人』などが特に好きで、それらを読んだあと、聖書を再読すると、砂に水がしみこむように、じわりと心に神さまの心が伝わってくるのだった。角川書店刊の文庫本では、物語の前に、必ず、その物語にふさわしい聖書のことばがいくつか紹介されていて、読後に聖書を読むと、その物語の意味がより深く伝わってきて、心があたたかくなるのであった。独身時代、ひとり暮らしの間、聖書によって寂しさを慰められ、そして、明日への希望を与えられたのであった。
人間はいずれ年を重ねるとひとりになっていくものである。その時、自分自身の心の自立を助けるのが聖書であると私は思っている。
『愛のあるところに神はまします』の主人公、靴職人マルティンもまた、聖書によって孤独を慰められ、自分よりもっと恵まれない人に善意を施す。その姿をイエズスさまがしっかり見ておられる。
私は聖書を眠る前のひととき、パッと開いた箇所を読むのが日課であるが、毎夜、聖書に守られて眠りにつく。