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心新たに

新井 紀子

今日の心の糧イメージ

 羊を飼い始めてから4年が過ぎようとしています。羊を飼うならば広い牧草地を作り、そこで羊たちがのんびりと草を食む。そんな風景を夢見ていました。

 一年目の春、牧草の種を買って、庭のそこここに蒔きました。種は芽吹いたのですが、草丈も小さいままです。そこに羊たちを放すと草の芽をあっという間に平らげてしまいました。

 二年目の春、牧草は一年目より少しだけたくさん、しかも密に生えました。それでも放牧すると、一週間で食べつくしてしまいました。

 三年目の春、牧草地を増やすため、森だった場所を牧草地にすることにしました。下枝を刈り、地面まで太陽の光が届くように間伐してもらいました。そこに、牧草の種を蒔いていきました。生えることは生えるのですが、あまり元気がありません。森にあった腐葉土と羊たちが散歩のときに落とす糞で牧草の肥料は十分だと思っていたのですが、不足していたようです。

 四年目、積もっていた雪が消えると、牧草用の肥料を買い込み、手でせっせと撒きました。牧草地を広げたので、撒くのに一週間もかかりました。しかしそうして生えてきた牧草を羊たちに食べさせると、お腹の具合がよくないのです。

 「困ったなあ。どうすればよいのだろう」

 そんな時、出会ったのが奇跡のリンゴで有名な木村秋則さんが責任編集した「木村秋則と自然栽培の世界」という一冊の本でした。無肥料・無農薬で自然栽培をしようとする提案です。〈肥料なしで植物は育つのかしら。羊たちの糞や敷きわらで作った堆肥もいらないなんて。信じられない〉

 化学肥料や農薬は人間の英知の賜物だと、信じて疑わなかった私にとって驚きの本でした。

 五年目の今春、心新たに私は無肥料無農薬で牧草を育てることを決心しました。雪解けを楽しみにしているところです。