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仕事と私

小林 陽子

今日の心の糧イメージ

 早朝7時、店の厨房に入ります。

 まず、釜に湯をたぎらすためにガスバーナーに点火します。たっぷり水を張った三つの大釜がガス台に並んでいます。ひとつは蕎麦を茹でる釜、もうひとつは丼を温めるための、さらに湯を調節し、杓で掬っては注ぎ足したりするための釜です。

 「釜前10年」といって、蕎麦を茹で、湯を調節するのは一分一秒を争う早業ですからなかなか年期のいるもののようです。

 それからお米を研ぎます。炊飯器のスイッチを入れる頃、先輩が厨房に入り、従業員の朝ご飯の用意を一緒に始めます。たいていご飯に納豆、みそ汁とお漬け物など。ネギを刻み、カウンターに薬味皿を並べたりしていると、この店の主と板前さん達の到着です。皆で朝食をすませると、板前さんは仕込みに入ります。玄関前の掃除や水撒きをして開店の時間を待つ、緊張のひととき。なんせ新参者ですから。

 「看板あげて!」のひと声で看板をあげ、営業中の札を出します。

 今日はじめてのお客さん。「いらっしゃいませ」と、とびきりの笑顔で。お水を出し、注文を伺います。「なにがおすすめですか」「当店の天ぷらはそば粉の衣でくるみ、ゴマ油であげていますので、香ばしく、ヘルシーですよ」。「じゃ、それを」と、おすすめしたお蕎麦を注文していただいたときの嬉しさ。お客が多くなり、満席状態になると、運動会のようです。カウンターにあがったお蕎麦を運び、また注文を取り、空いた丼をさげて洗い・・と目が回るようです。生まれて初めて手と足と口と・・・体を使っての仕事、おばさんウエイトレスの新世界!。

 聖書の中の、かいがいしくイエスをもてなすマルタの姿を想い、「わたしにもマルタが務まるのだわ」と新鮮に感激したものです。