▲をクリックすると音声で聞こえます。

仕事と私

今井 美沙子

今日の心の糧イメージ

 先日、鹿児島で幼なじみのシスターと食事中に、仕事魂というべき話をきかされた。

 「仕事と私」というテーマで何を書こうかと考えていたら、こちらが何もいわないのに、そういう話をしてくれたのだ。

 昭和37年、五島の福江大火の時、郵便局員だった彼女のお父さんは、猛火せまる中、市内のポストをくまなく回り、郵便物を全部守り、表彰されたというのだ。初めて聞く話であった。とっさの時に自分の仕事の本領を発揮したのであった。

 20年余り前、取材の折に聞いた話も忘れられない。消防士の人が休みの日、彼女とデート中、交通事故に遭遇した。彼はその現場を見て、彼女とデート中だったことをすっかり彼方へ置き忘れて、ひん死の状態の人の傍に行き、人工呼吸を必死で行い命を救った。しばらくして救急車がやって来た。彼は一緒に飛び乗ってしまった。他県でほったらかしにされた彼女は怒り、つき合いは解消された。が、彼には後悔はなかった。あの時、もし、見て見ぬふりをしたら、一生、後悔の毎日を送ったであろうからというのであった。私が、「それでいいと思う。あなたの仕事魂がわからない人なら、将来、結婚してもうまくいかなかったと思う」と感想をのべると、真白い歯を出してにこっと笑ったことを覚えている。

 私は17年間にわたって『わたしの仕事』をテーマに400種ほどの職業を紹介し、出版社より17巻刊行されている。

 さて、人の仕事魂のことは数えきれないくらいこれまでに紹介したが、あなたはどうかときかれたら、私はそれぞれの仕事にたずさわる人たちの仕事魂を聞き、それを記録するのが私の仕事魂だと答えたい。そのために、私はどこへ行くにもメモ帳と万年筆を携帯している。それが私の仕事魂の源なのである。