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仕事と私

岡野 絵里子

今日の心の糧イメージ

 仕事とは何か、定義しようとすると、意外に難しい。辞書の上では、仕事とは「する事。しなければならない事」となっている。私たちが住む現実の社会では、「生活するお金を得るために働くこと」を指すようだ。

 入社試験で、「あなたにとって、仕事とは何ですか?」と聞かれた時の、模範解答の一つを教えてもらった。「家族を守り、養う手段であり、そして結果を出すことで、多くの人々に認められる喜びをもたらしてくれる、価値のあるものが仕事です」だそうだ。企業によって、多少の違いがあるにしても、社員に期待する望ましい仕事観が窺える。すなわち、仕事とは、人のためにするものである。家族を養うため、社会や他人の役に立つためのものである。次に、自分を成長させるものである。社会と人々に認められるようになり、自分の存在価値を見つける。そして、生きがいや達成感を感じるもので、打ち込む価値のあるものなのだ。

 では、私にとって仕事とは何だろうか。私の仕事は詩を書くことである。詩の原稿料だけで、家族を養うことはできないから、仕事とは認められない、と入社試験の試験官からは言われてしまうかもしれない。それでも、詩の仕事とは、見えない存在に近づく仕事である、と敢えて答えたいと思う。詩は言葉で作られて、さらにその先へ進むものだ。言語の奥から立ち上がる、本来、言葉では表現し得ない場所が、詩人の目的地なのだ。そこへ近づくまでの長い時間が、詩人の仕事時間なのである。聴こえない声に耳を傾け、心を澄ませていく過程は、静かに祈ることと似ているかもしれない。

 数えきれない人々の仕事、人々の祈りを乗せて、世界は動いていく。その音を書きつけるのもまた、詩人の仕事だと思っている。