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仕事と私

越前 喜六 神父

今日の心の糧イメージ

 私が昔見たテレビのニュースで一番ショックを受けたのは、あるアメリカ人の失業者の言葉でした。

 ニューヨークのマンハッタンに群がる失業者にインタビューしていた番組で、その質問は「あなたがいちばん欲しいのは、何ですか」というものでした。すると一人の失業者が、「何でもいいから仕事がしたいんだ」と答えていました。

 お金でもない、住まいでもない、配偶者でもない、ただ仕事がしたいという欲求は、人間にとって根本的な叫びではないかと思いました。普通は、安定した収入を確保するために仕事を探し、職に就き、働くのではないでしょうか。

 けれども、人間にとって本質的な欲求は、幸福になることですから、自分に与えられた能力や才能を使って、「世のため人のために」何かをしなくては幸せを感じることができないでしょう。これこそが生きがいというものです。そして、その結果、収入があるということでしょう。

 私は戦後、高校を卒業してすぐに、当時出版社をしていた兄の仕事を手伝いました。当時はお金がなかったので、上級学校に進むことはできませんでした。私に与えられた仕事は雑誌の校正をすることでした。真面目にその仕事をしたので、兄は翌年私を東京・神田にある八畳一間の出張所に派遣し、雑誌の編集・発行、図書の出版などの仕事を任せられたので、そのほとんどを一人でやりました。給料はほんの僅かでしたが、当時の学者やジャーナリストなどと知り合うことができ、貧しいながらも楽しい毎日でした。それに主に戦後の若者を勇気づけるための出版の仕事でしたから、私自身も大変勉強になり、感謝したものでした。