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平和を考える

末盛 千枝子

今日の心の糧イメージ

 ヨハネパウロ二世が「戦争は人間の仕業です」と強い口調で言われたのは日本に来られたときだったと思います。私は、今度の東日本大震災の時に、度々そのことばを思い出しました。戦争などしなくても、これほど大変なことが起こるのだ、と心底思ったからです。

 そして、ある日、被災した老婦人がテレビで「戦争とこの災害とどっちが大変ですか」と聞かれて、吐き捨てるように「戦争に決まっているでしょ」と言った姿が忘れられません。ものすごい惨状を目の前にして、インタビューする人は、この女性が災害の方が怖いと言うのではないかと思ったのでしょう。でも違いました。

 そして、もう何年も前のことですが、日本文学の研究者として有名なアメリカ人の老紳士と、ある修道院の食堂で同席したことがあります。今となっては、どういうことからそのような話になったのか憶えていませんが、その方はアメリカ兵として沖縄戦を経験した人でした。涙を浮かべて沖縄戦の悲劇を語られました。この方は、この年になっても、沖縄の人たちの悲劇をこのように生々しく忘れないのだと呆然とするような思いで聞いていました。確か、その修道院に沖縄で一緒に戦ったアメリカ人で、戦後修道士になった方がいたのです。

 平和を考えるということは、人を愛するということと同じに、想像力がなければ出来ないことだと思います。子どものときに、人の悲しみや苦しみを思いやる心が育たなければ、いつまでたっても戦争はなくならないのではないかと思います。そして、あの被災地の女性のように、自分たちが一番大変なんだと思わない、世界中に大変な人たちが他にもたくさんいるのだと、常に思うことが、とても大切なことのような気がします。