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私とロザリオ

土屋 至

今日の心の糧イメージ

 1986年2月に起きたフィリピン市民革命は、ピープルズパワー(人びとの力)が武力に頼ることなく平和的に独裁政権を倒し民主的な政権を作り出した画期的な革命であった。この歴史的な「革命」を象徴する印象的なシーンがいくつかある。

 そのひとつは、町に氾濫した「ラーフィング・クライスト(笑うキリスト像)」のポスターである。福音書には、イエスが怒ったところや泣いたところはいくつか書かれているが、イエスが笑ったと書かれているところは確かにない。しかし、この時に町には笑っているキリストの顔のポスターがあちこちに貼られていて目に付いたというのだ。

 二つ目は、市民のデモ隊が、警備する警官隊に対して投石しようとしているのを、修道服姿の修道士が両手を広げて制止しようとしている写真であった。この修道士は市民が暴徒化しようとするのを体を張って阻止しようとした。石を投げようとしていた若者もこの修道士の制止にさからえず石を捨てた。

 そして三つ目は、基地を出ようとする戦車の前に市民たちが座り込んで戦車の出動を阻止しようとしたシーンである。そこには修道服姿の修道女たちも交じっていた。そして戦車の前に座り込んだ市民たちはみなでロザリオの祈りを唱えだした。口々にアベマリアの祈りを唱えて座り込んでいる市民に対して、兵士たちは蹴散らすことも銃を向けることもできず、戦車は動けなかった。祈りがピープルズパワーの「血を流すことのない武器」となったのである。

 いかにもキリスト教徒の多い国フィリピンらしい出来事であるといってしまえばそれまでだが、だからこそ歴史的にもめずらしい武力にたよらず血を流さない市民革命が可能であったのだと私は思う。