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私とロザリオ

森田 直樹 神父

今日の心の糧イメージ

 応急仮設住宅の一室から、熱心な祈りの声が英語で響く。子どもたちが時折うろうろすることもあるが、お母さんたちは一心に祈り続けている。その声は助けを求める懇願でもあり、信頼に満ちた一種の安堵でもある。

 土曜日の午後。岩手県の陸前高田市周辺に住むフィリピン出身のお母さんたちは、毎週持ち回りで聖母マリアのご像を家から家へと運び、そのご像を取り囲んで、熱心にロザリオの祈りを捧げている。東日本大震災・大津波の前には、ほとんど行われなかったというが、大災害の後、同じ国から来た仲間たちと一緒に祈るようになったという。

 彼女たちは多くを語らないが、メンバーの半数以上が家を流され、財産を失い、今も応急仮設住宅に住んでいる。祈りの声はいつもある種の熱気に包まれている。

 ところで、世界中でロザリオの祈りは多くの人たちに愛されている。誰にでも唱えられる手軽さと、一緒に祈りを捧げる時のある種のリズムに助けられて、熱心に祈りが捧げられている。特に、苦しみや困難の最中にある人々にとって、この祈りは大きな助けとなり慰めとなっている。

 応急仮設住宅でのロザリオの祈りが終わると、おやつとお茶の時間になる。うろうろしていた子どもたちも交えて、和やかで笑い声にあふれるひと時となる。熱心に祈りを捧げ続けていたフィリピン出身のお母さんたちからは、何かを捧げ尽くした達成感のようなものを感じる。日常生活での苦しみや困難、さまざまな問題、悩み事すべてを、聖母マリアを通して、神さまに捧げ尽くしたかのようである。

 応急仮設住宅でのこのロザリオの祈りの体験を私は生涯、忘れることはないだろう。そして、私がどこにいても、ロザリオの祈りを捧げる時、彼女たちのことを思い出すことだろう。