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健やかさの源

岡野 絵里子

今日の心の糧イメージ

 本来、手紙の書き方には作法があって、時候の挨拶に始まり、要件を伝える文章の後には締めくくりの挨拶を書く。相手を気遣って、健康や幸福を祈る言葉で結ぶのが、礼儀にかなった心ある手紙なのである。

 電子メールの時代になり、手紙の言葉は無駄を省いて縮まり、光の矢が飛び交う速さで届けられるようになったが、人の挨拶の形は残っているようだ。私も要件だけ書けば済むと思いながらも、つい「ご多忙の日々、どうぞ御身体お大事になさってくださいませ」などと結びの挨拶を書いている。

 ただこの結びの文章を書く度に、正直なところモヤモヤとしてしまう。この決まり文句の挨拶は、人にとって最も大切である「心」に触れず、「身体」のことしか気遣っていないのである。
 だが、現代人がストレス社会において様々に心を病むからといって、「メンタルヘルスに配慮されてお大事になさってください」などと書いたら、相手に何か問題があるかのようで失礼極まりないことになるだろう。

 心は労(いたわ)りを必要としているけれども、決して他人が安易に触れてはいけないものなのである。心は人の奥にある特別な場所にそっとしまわれているのだ。

 何かよい表現はないかと探したところ、「健やか」という言葉が見つかった。「健康な」が、身体に病気のない状態を指す医学的な言葉であるのに比べ、「健やか」は健全な心身が調和し、生命力にあふれる様子を表す。広辞苑の定義とは違うが、実際にはこのように使い分けているらしい。ありがたく早速使うことにした。

 「まだ夏の気配が残るこの頃、皆様どうかお健やかに過ごされますよう、お祈り申し上げます」。